味な旅・福島 その4(了)

9月22日(土) 最終日

11時にホテルのロビーに集合。チェックアウトを済ませ、最小限の携行品だけを残して荷物を預ける。

ホテルを出て最初の上演場所へと徒歩で向かう。その途中、ラーメン屋で腹ごしらえ。駅近くの『丸信ラーメン』というところ。しょうゆラーメン¥550を食べる。スープが2層に分かれている。上が透明で下が濁ったやつ。食べているうちに自然に混ざってくる。太いちぢれ麺とあっさりスープがよく合って、とてもうまかった。ここもできればまた来たい。このラーメン屋にいる間、なぜか女性陣が交代でひっきりなしにトイレに立つ。皆さん飲み過ぎでしょうか。

 

ラーメン屋を出てまた歩き、ほどなくセシウム公園(不謹慎)に到着。13:00上演開始。橋を渡り始めるが、曇天だった前日と違い、晴れていてかなり暑い。前日のリハーサルと同じでもう新鮮味もないし、昨晩の酒も若干残ってるしで、全然やる気が出ない。適当に形だけこなすことにする。

対岸の、拡声器で指示を出す大木から少し離れたところに、イキウネらしき人影が見えた。上演を観察しているようだ。と思ったら、とつぜん水際のところまで駆け出して、川に向かって上半身を折り曲げた。遠くからも、こぼれ落ちる吐瀉物がはっきり見えてしまった。このうんこ野郎。

 

以下、各上演の詳細は省く。どの場所にもイキウネがつきまう。微妙に離れた場所からこちらをじーっと見ていて、ときどき野次を飛ばしてくる。かまってほしいらしい。完全無視が一番だと分かっているが、ついイラっとして睨んでしまう。第三場でこちらが台詞をかんだ時には、ここぞとばかり盛大に笑われた。ただでさえ通行人がいて恥ずかしいのに。向かいの家から子供が5、6人も出てきて、くすくす笑いながらこっちを見ているのに。思わず「笑うな!」と声をあげたら、芝居に集中するよう大木にたしなめられた。仕返しに第四場で、どうやら地下道にいる雲雀氏を探してあちこち駆けずり回っているらしいイキウネを、みんなで手厚く罵ってやった。

 

第四場の上演中から雲行きがあやしくなり、終わって駅に向かう間に降り始めた。ほどなく土砂降りに。駅前の通りで自民党総裁選の街頭演説をやっていた。安倍君、石原君、その他候補者が勢ぞろい。かなりの人だかり。しばらく皆で立ち止まって、石原の演説を眺める。テレビで見た印象よりも「ええ声」で驚く。そういう家系なんでしょうか。

目の前をまたイキウネが通り過ぎていく。すれ違いざまにちらっとこちらを見て、すぐに目をそらしやがった。少し離れたところで彼も演説を見ていた。大木には卵を投げても、石原君には投げないようだ。

 

小降りになってきたので駅に向かう。タクシーで信夫山へ。前日で懲りたため、車で直接展望台に乗り付ける。街並みを眺めるが、昨日いちど見ちゃったので何の感慨も湧かない。ここだけはぶっつけで良かったのではないか。仕方がないので大きな石の上に登って遊んだりした。雨で濡れているので本当は危ない。大木がまた拡声器を取り出して「さようなら福島」とか何とかぶつぶつ言い始める。その間だけ神妙な顔をしておく。

護国神社まで歩き、タクシーに乗ってホテルに戻る。日差しと雨にやられて皆かなりぐったりしている。新幹線の時間までロビーのソファーで休んでいるうちに、少しうとうとしてしまった。

 

気がつくともう時間ぎりぎり。急いでホテルを出て、早足で駅に向かう。駅前広場はけっこうな人出。駅の建物に入ろうとしたところで、男の声に呼び止められる。またイキウネ。俺はアンティゴネーの専有を許さないとか、オイディプスがどうとか言い始めるが、人が多くてよく聞き取れない。というかこの童顔の青年、態度がでかいわりに声が小さい。

台本とおぼしき紙の束を雲雀氏に差し出す。その手をロッソが駆け寄って払う。白い紙がばらばらと宙に舞う。ロッソがそのままイキウネの胸ぐらをつかんで引きずり回す。と、警備員の服を着たおっさんが現れて、二人の間に割って入る。ロッソをなだめにかかる。俺もそちらの方に歩き出していた。おっさんとイキウネ、どちらをどつきに行こうとしていたのか、よく覚えていない。「やめてください。列車に遅れます」という大木の声(via拡声器)で我に返る。あわててトランクをつかみ、多少ざわついている人ごみを残して駅に駆け込んだ。

新幹線にはどうにか間に合った。駅弁も確保。あのまま大木が止めてくれなかったら、けっこう大ごとになっていたかもと思う。

 

電車の中ではみな言葉少なだった。疲れていたせいかもしれない。駅弁を食うのに忙しかったからかもしれない。食後、放心状態で座席にすわっているうちに、また眠ってしまった。

目が覚めたらもう宇都宮あたり。上野駅で俺以外の4人は降りた。窓越しに手を振る。東京駅で山手線に乗り換え、あれやこれやで無事帰宅。録りためておいた『梅ちゃん先生』をまとめ見して寝る。(終わり)

 

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