めでたしめでたし

「『私は子どもの時から、具体的に知覚できる事物を表現しようとする性向を持っていました。単なる関係とか状態、あるいは抽象概念といったものは、私にとってあまり価値がなかったのです。そのようなものは、思考の仲間に加えることができませんでした。幼いころ私は色々なものを並べてできあがったものに、たまたまよく耳にする土地の名前を付けました。(…)その上、聞き覚えた抽象概念や関係にも、具体的な形を与えて心にとめておくことができたのです。今でも覚えていますが、子どもの時“徴兵”という言葉をよく耳にしました。そのころ私たちの家に新しい楓のテーブルが運ばれてきました。テーブルの平らな板は、くすんだ色の木の楔で締めてあります。この楔の横断面が厚板の合わせ目からはすかいに見えます。この部分を私は“徴兵”と名づけたのです』」(シュティフター『晩夏』、薔薇の家の主人の告白より)

 

俺の弟は小さいころ、プラスチック製の4トンカラーぐらいに色分けされた筒状の物体(用途不明)に、「にんきもの」と名前を付けて大事にしていた。その後長ずるにおよび、上の話し手のような芸術家になることは特になく、今ではただの釣り好きの30男である。