アニマルズ

猫好きの人が増えた気がする。というより、その旨を人前で表明する人が増えた。その場に同好の人間を見つけると(これがまたいるんだ必ず)、手をとりあって聞こえよがしに「猫かわいい」「猫かわいい」を連呼してくる。はいはいわかりましたよ。猫のことなんかどうでもいい奴だっているんだから、ちったあ胸の内にしまっとけ。

この愛猫者の氾濫は、おもちゃみたいなカメラを首から下げて外をほっつき歩く若い娘が増えたことと、なにか相関関係にある現象という気がしてならない。

背景事情はわからないでもない。猫はいまや、おおっぴらに人前でハァハァしてみせる対象として、かなりの安パイだろうからだ。これが人となるとそうはいかない。なにかと差し障りが出てくる。いま女性がいる前で、本人もしくは誰か特定の女性をネタにハァハァすることは、完全に「アウト」である。男女を入れ替えたパターンはまだ社会的に許容されているように見えるが、これだって内心は不快感を持たれることを覚悟しなければならない。ましてその対象がジャニタレだとしたら、万事休す! この不快感は嫉妬みたいなものとは少し違うように思う(余談だが、しかも自慢と取られても困るが、私のような者でも若いころ、さして親しくもない、特段の好意も持っていない異性から、自分をネタにしたソフトハァハァ的妄想を面と向かって聞かされたことがあり、それはけっこうに気持ちの悪い経験だった。死ねよと思った)。

そこで猫ですよ。これなら誰も傷つけない。痛いやつとも思われない。思うさま人前で、よだれを垂れ流してみせることができる。同意を求めることができる。なんなら「心のやさしい人」という高評価までもらえかねない。人間の子供でもかまわないのかもしれないが、男性の場合は幼児性愛者と間違われるリスクが発生する。やはり連帯するなら猫だ。

おす。かなり無理があることは分かっている。たかが猫相手に大人げないことも。だが、それにしたってなぜああもあからさまなんだと、慎みを捨てられない私のような明治生まれの人間は思ってしまうのである。人は本来、公衆の面前でハァハァしたい生き物なんだろうか?