打ち入り始末記

禁酒の誓いをあっさりと破ってしまった。打ち入りだったんだから仕方ない。不可抗力だ。明日は二日酔いまちがいなし。みんなもかなり飲んでいた。

キーボードを打つ手もおぼつかないが、なんだか妙に興奮しているみたいなので、今のうちに書いてしまおう。

 

しかし、このメンツで飲むことになるとは、半年前は予想もしなかった。騒動のあと劇団に残った人間(つまり今回の参加メンバー)が揃いも揃って口の重たい連中ばかりで、稽古場で少しうんざりというか、むなしくなりかけていたのだが(気がつくと俺一人が虚空に向けてしゃべっている、ということもしばしば)、今日はみな酒が入ったこともあって、かなり騒々しい会になった。

 

とりあえずロッソの初体験話には笑わせてもらった。女ばっかりの高校演劇部で男一人て。エロゲーか。しかも本番は囚人と女看守のコスプレ、いや衣装つきという。きつい。いきなり上級編。高校時代のその一件が今のところ最初で最後で、あとは現在までずーっと何もなしというのは気の毒である。がんばってくれ。酔っ払って吉本さんにからんでる場合じゃないよ。

吉本さんは入団そうそう気の毒だったが、ロッソのねちっこいアプローチを平然と受け流していたのには驚いた。台詞の言い方のことかなにかで因縁をつけられていたようだが、それに対して、ほんとうに難しいです、でもわたし変わりたくって、ロッソさんは普段おうちとかでどんな練習されてるんですか、などとにこやかに質問で応酬していた。年相応のきゃいきゃいしたお嬢さんに見えるけれど、かなりのしたたか者という気がする。前は俳優養成所にいたらしく、こんな潰れかけの斜陽劇団に流れ着いたことに内心思うところがありそうなものだが、そんな素振りをまったく見せない。屈託のない顔をしている。そのほうがこちらとしてはやりやすい。腰の据わった日和見主義者という感じ。

それでも段々とロッソのからみ酒がエスカレートして、吉本さんにほとんど顔をくっつけんばかりになった。そろそろやばいか、でも口を出して鉾先がこっちに向いてもめんどくさいなと思っていたら、向かいの席にいた雲雀氏がいきなり手元のおしぼりをぱっと拡げて、覆うようにロッソの顔に押し当てるなり「やめてください」と言い放った。その一言でロッソは黙り込んでしまった。普段おとなしい人間が急にこういうことをするとインパクト大である。そのあとロッソはそのおしぼりで顔をごしごし拭いていた。人のだろ。

雲雀氏とも少ししゃべったが、彼女とまともに話をするのは初めてのような気もする。フジタ時代にそんなことをした記憶がない。基本的に口数の少ない、何を考えているのかわからないタイプが苦手なのだ。内容はたわいもない四方山話だったが、とりあえず意志の疎通ができることは分かった。

それで調子に乗って、話の流れで彼女を「ひばりん」と呼んでみたら、完全にスルーされた。一瞬ぴたりと止まったあと、何事もなかったようにもとの話を再開しやがった。にこりともしない。37歳の心はちょっぴり傷ついたよ。知るかぎり人から本名でしか呼ばれたことのないおぬしにせめて愛称を差し上げるところから始めようという、この親心が分からないのか。それともなんかヒバゴンみたいで嫌だったのか。

あれこれ書いたが、ほとんどの時間は大木凡人としゃべっていたと思う。それも青臭い、いまさらの演劇論を。酒が入るとどうもいかんな。正体見たり。しかも気がついたら凡人泣いてるし。え俺? 何もしてないよ!?